イタリア南チロル りんご高密植栽培を視察しました!

 9月23日から29日まで、イタリア南チロル地域のりんご高密植栽培を視察しました。
これは青森県りんご果樹課による「イタリア南チロル地域におけるりんご海外先進地視察調査」に同行したものです。私にとって初めてのヨーロッパ訪問であり、高密植栽培が盛んな地域を実際にこの目で見ることができること、ヨーロッパの空気、生活、文化や食事等に触れことができるということで、期待と不安が入り混じった気持ちで出発しました。

南チロル地域の位置
すき間なく高密植栽培が行なわれている
高速道路からの車窓風景
栽培の難易度が高いとされている「ふじ」の優良園地

 南チロル地域は、りんご栽培面積は18,500haで生産量100万t~110万t。栽培面積は青森県よりやや少なく、生産量は青森県の約2.5倍。一農家の平均栽培面積が3haと、栽培面積や農家規模は青森県と非常に近いですが、生産量が多いのは、そのほとんどが高密植栽培(トールスピンドル)で行われていることによる反収の違いによるものです。この地域のどこを見ても、トールスピンドル栽培であり、あらゆる作業が機械を利用したものです。トラクター1台にアタッチメントとして、スプレーヤ―、草刈り機、収穫機が取り付けられ、整然と並んだ樹と樹の間をこれらの機械が通って、ほとんどの作業を行います。また、そのトラクターに荷台を取り付け、その上に収穫用のビン(300㎏)を15ビン積んで、一般道をかなりのスピードで走る光景が見られました。このように、全ての機械や運搬者が高密植栽培に対応したものになっていることが、高密植栽培の普及にも寄与しているものと思いますし、高密植栽培が普及しているからこそ、機械もこの栽培により最適なものが開発されると感じました。さらに、最新式の葉取り機が開発、導入され始めたそうで、まだ少ないこの機械が園地で稼働している場面を見ることができたのは、非常にラッキーでした。

新しく導入が始まった葉取機と稼働の様子
比較的古いタイプの収穫機

 次に、日本にはない素晴らしい点として、ヨーロッパ各国による分業が進んでいることが挙げられます。イタリアでも苗木生産が行われていますが、台木はすべてオランダからの輸入です。オランダは台木、苗木生産に特化しており、M9T337台木がオランダから83円で購入できるそうです。視察先の苗木業者Gribaでは年間250万~300万本の苗木を生産しています。高密植用苗木として、フェザーが7本以上の優良苗木が900円と日本と比べて非常に安い価格で販売されています。世界各国で苗木のコンサルタント業務も行っており、その数は38か国に上るそうです。

 南チロル地域のりんごの歴史として、1960年代にヨーロッパ全体の過剰生産による価格の暴落が起こり、りんご生産は危機に直面したそうです。以前は大樹栽培がメインで、3m~5mの高さにはしごで登り収穫していたようです。作業効率が悪く、反収2.5tと非効率的で、人件費の高騰もあり、これまでの栽培に見切りをつけたそうです。その後、普通わい化栽培であるスレンダースピンドル、高密植栽培のトールスピンドルへと移行。このことがこの地域を優良産地に変えた大きな契機となりました。また、1957年のEUへの加盟、1976年に設立されたラインバーグ研究所(試験場)の貢献も大きかったといいます。後継者かそうでないかにはかかわらず、これから農業を始めようとする方は、必ずこの研究所内の農業学校で学ぶ必要があるということです。農家で働く作業員もここで学ぶ方も多いそうで、ここでしっかりとりんごに対する知識を得ることになります。

ラインバーグ研究所(試験場)
トールスピンドルより高効率化が期待されるマルチリーダー

 販売面では、標高200mから500mの平坦地で、これまで34団体が個別に価格競争しながら販売していたものをVOGという一つの販売組織にまとめ、標高500mから1000mの高地では、これまで9団体が個別に販売していたものをVIPという団体にまとめたのが約20年前だそうで、それぞれ優利販売に繋げてます。このようなことも、南チロルのりんごの地位確立に繋がっていると感じました。

 もう一点、南チロル地域のりんごを支えているのが、「りんごの館」と呼ばれる施設です。ここには8つの団体が入っており、新品種に特化した機関、青森県でいうりんご協会のような機関、販売期間であるVOGとVIPなどが入っています。その中で、SKという新品種に特化した機関も視察しましたが、世界のクラブ制りんごにアンテナを張って、良い品種があれば積極的に栽培権獲得に動いているといいます。今回、コスミッククリスプという品種の園地を見せてもらいましたが、この品種は粗放栽培が可能だそうで、その上、SKが求めている「外観」「食味」「貯蔵力」が揃った品種です。新品種の試験や新しい栽培方法の試験も、ラインバーグ研究所とも連携しており、標高200m、500m、1000m付近とあらゆる場所での試験を15年間行うという念の入れようで、適地に最適な品種を栽培してもらうという戦略のようです。

「りんごの館」とその中に入る8団体
コスミッククリスプ定植4年目の園地の様子
「イエロ」(シナノゴールド)の園地と25年目を迎えたピンクレディの園地(着色の為、新梢をハサミで落としていく)

 今回、南チロル地域のりんご産業を視察してきて感じたのは、多くの販売団体を一つにまとめあげ有利販売を行う「横の繋がり」と、試験期間や指導機関などが、EUからの補助金を生産者に分配することや、多くの試験を行いその結果を生産者へ活用してもらう「縦の繋がり」がしっかりと確立されていること、さらに縦と横の繋がり同士が関係し合い、りんご産業発展のために一丸となっていることが、この地域を優良産地としての地位を築いたのだと感じました。

 SKで栽培管理を担当し、我々を終日案内、説明してくださったクレメンスさんは、自らも父とともに10haの園地を栽培しながら、SKでの業務も行っているそうです。彼は「現在りんごの優良産地である南チロルも、つい30年前まではこのような状態ではなかった。優良産地にするために我々はハードワークをしてきた。」と言っていたその言葉が忘れられません。今回の視察を機に、自分ももっと頑張らなければという思いを強くしました。現在、弊社が取り組んでいる高密植栽培の普及を通じて、青森県のりんご産業にいくらかでも貢献できればと思った次第です。

取締役部長  吉崎 尚文

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