要約版

『りんご落葉粉砕処理がりんご黒星病菌子のう胞子飛散量に及ぼす影響に関する園地調査(2019年~2021年)』【要約版】

・りんご黒星病の生態について

写真1(子のう胞子画像)

 りんご黒星病発生のメカニズムは、一次感染と二次感染に分けられます。
 一次感染は、前年の秋に落葉した被害葉に形成される黒星病菌の子のう胞子(菌の卵のようなもの)(写真1)と、枝の芽のりん片組織で越冬した分生子が発生原因(一次感染源)となります。越冬中に形成・成熟した子のう胞子は、4月から飛散が始まり、特に降雨のあった日は飛散量が多くなります。一次感染による被害果・被害葉は、5月下旬~6月上旬に確認されます。
 二次感染は、一次感染によって被害果・被害葉の病斑上に形成される分生子が発生原因(二次感染源)となります。その分生子の飛散により7月下旬~8月上旬に二次感染のピークを迎えます。
マンガ「みんなで取り組む黒星病対策」p4~5参照
 感染スピードは、夏場の高温と乾燥で一旦停滞しますが、秋ごろ(8月下旬~9月上旬)に気温が低くなり降雨が続くと再び感染が拡大します。
 青森県津軽地方では、2015年~2019年に黒星病の発生が目立ち、DMI剤やQoI剤などの防除薬剤に対する耐性菌の発生が確認されたことから、被害果・被害葉を園地から除外し、園地内の菌密度を低下させることの重要性が再確認されました。
 このことから、弘果総合研究開発㈱では、一次感染源となる被害落葉の粉砕処理により、黒星病の被害を減少させることはできないかと考え、落葉粉砕処理について弘前大学と共同研究を行いました。

・調査期間

 青森県津軽地方のりんご園3か所(A、B、C)を調査園地として、2019年~2021年までの3年間調査を実施。

・調査方法

 調査園地にて、4月上旬の雪解け後に、自走式草刈り機を用いて越冬落葉の粉砕処理を実施(写真2)。調査園地には、落葉粉砕処理区と未処理区を設け胞子トラップ(写真3・4)を仕掛け、子のう胞子の飛散数の調査を行った。粉砕処理以外の薬剤散布等の作業については、各園主に通常通りの防除をお願いした。
 また、一次感染の被害状況について6月から7月にかけて1~2回各調査園地にて樹上調査(写真5)を実施。

写真2(落葉粉砕処理の様子)
写真3(トラップ外側)
写真4(トラップ内側)
写真5(樹上調査)

・調査結果まとめ

 調査期間全体を通して見ると、大発生した翌年の2019年で子のう胞子の飛散が、3年間で一番多く2020年、2021年と次第に減少していく傾向が見られた。
 落葉粉砕処理区と未処理区で比較した結果、最も飛散した2019年においては、調査園地3園地共に、落葉粉砕処理区での子のう胞子飛散数が未処理区と比べて少なくなったことから、落葉粉砕処理には一定の効果があるものと考えられた。2020年、2021年については、全体的に黒星病の発生自体が少ない年であったことから、落葉粉砕処理区と未処理区の明確な違いは見られない結果となった。
 また、被害調査としての樹上調査においても、落葉粉砕処理区と未処理区共に、黒星病の被害果・被害葉が確認されたことから、落葉粉砕処理には、一次感染源である子のう胞子の飛散を減少させる効果があると思われるが、子のう胞子の飛散数を完全に抑えることはできないことも判明した。
 落葉粉砕処理と、黒星病防除に有効な薬剤散布等と組み合わせることで、より効果的に園地内の黒星病の菌密度を低いレベルで抑えることが期待できると考えられる。

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